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植物図鑑をめぐる人間模様 書評:牧野植物図鑑の謎

これはおもしろい本だ、マジで。植物に限らず、「図鑑」が好きな方には絶対にオススメできる。

北隆館の牧野日本植物図鑑をご存知だろうか。牧野富太郎牧野富太郎 が著した植物図鑑のパイオニアである。私はこの図鑑を初めて知ったとき、欲しくてしようがなかったが、高価でとても買えなかった。しようがないので学生版、1,890円を買ったのだが、このくらいの方が持って歩けるのでいいのかもしれないと思うようになった。

この図鑑は中にある植物の図が全てイラストである。このカラー写真全盛の時代にあっても、イラストにはしっかりとした価値が存在している。学生版は縮小したものを使用しているので細部がつぶれていてちょっと残念だが、まあ、しかたあるまい。

イラストの長所は精密さだけではない。この時代の他の植物図鑑は皆そうなのだろうが、構成が非常におもしろい。トラックバック先のnicoの散歩道というサイトの「東京旅行での出会い。 [旅・散歩]」という記事エビネエビネ という植物のイラストがあるのでご覧いただきたい。葉のウラの見せ方や上部と下部、土の中の部分を重ねて描くなど、工夫が満載だ。写真ではこうはいかないよな。

さて、本書では著者がある日付を見つけたところから始まる。牧野による「日本植物図鑑(※牧野日本植物図鑑とは別物)」と村越三千男「大植物図鑑」の奥付にそれぞれ印刷日と発行日があるのだが、牧野のものが村越のものより一日遅く印刷され一日早く発行されているのである。著者はここに何かを感じ調査を開始する。

どうでもいい話だが、本の奥付って結構おもしろいものである。大抵はたいした情報もないのだが、ときどき「おっ!」と思うことが書いてある。本書の奥付は本の物理的な大きさと総頁数が記載されている。平凡社新書は皆こうなんだろうが、こんなことを書いているのはかなりめずらしい。ちなみに本書記載の頁数は188頁、調べてみると本文用紙が188頁分ある。本文最後にシロが2頁あるが、印刷なしであっても本文であると平凡社では考えているということだ。

閑話休題。本の業界にいる人なら知っていると思うが、実は奥付記載の本の発行日はアテにならない。また、著者は発行日を販売日と考えているようだがそれも違う。牧野と村越がお互いの発売日を意識していたのは間違いないだろうが、日付の逆転だけは単なる偶然で、単に翌月一日発売とか、そういう理由で日付が似通っただけではないかと私は思う。

それはともかく著者は丁寧な調査を開始し、牧野と村越が最初は手を組んで植物図鑑を出したのに、ふとしたことから離反していく様子を見事に感じ取っていく。そして村越の死後、牧野がとった行動はちょっと意外なものだった。本書における様々な推理は、破綻がなく説得力もある。他にも牧野の人物像や、明治40年前後に植物図鑑の出版が相次いだ理由、「図鑑」は誰の発明品か、などに触れていてとてもおもしろい。新書で180頁くらいだから気軽に読める。

いまなお出版され続けている本、それも植物図鑑という狭い分野にもこんなドラマがあったとは驚きだ。本の出版は時代を遡れば遡るほど社会的影響は大きかったと考えて差し支えないと思うが、当時の人々は実際の出版合戦を見て何かを感じていただろうか。

一応メモ程度に書いておく。高知には高知県立牧野植物園があって、牧野の蔵書が牧野文庫として保存されているそうだ。いつか行ってみたい。このウェブサイトの写真を見て、どっかで見たことある建物だな、と思ったので調べてみたら設計は内藤廣内藤廣 だった。たぶん雑誌で見たんだろうな、カッコイイ。

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