貸本
というと、いまならコミックレンタルが主流だろうか。冊数が多い連続もののコミックは読みたくても買うにはちょっと・・・、という向きにはありがたいことだろう。
貸本小説とは貸本のために書き下ろされた小説の総称だ。昭和30年代に全盛を誇った貸本文化はその後廃れてしまったが、本書ではそれらの貸本小説に再度スポットを当てるべく奮闘している。
本書を読んでみて、正直言うと私は貸本を読んでみたいとは思えなかった。だってメチャクチャなんだもん、小説が。B級映画みたい。
本書で紹介されている貸本たちは、タイトルからしてきな臭い匂いを漂わせている。
私は以前レンタルビデオ店でバイトをしていたことがある。大量のビデオを貸し出して、戻って来たビデオをケースに入れているうちに、タイトルを見ただけでツマラナイ映画がわかるようになってきた。おもしろいかどうかはわからないけど、おもしろくないのはわかるんだよな、これが。
貸本小説のタイトルってどこか映画みたいな感じがするのだが、本書によると、かつての日活映画の原作を手がけた作家が貸本向けに書き下ろしていたこともあるそうで、どこか映画っぽいのは自然なことなのかもしれない。
著者は貸本のタイトルの単語の使用頻度を調べている。サンプリングは303冊、ベスト10が掲載されているがそのうち上位3つは以下の通りである。
- 若様 27冊
- 浪人 21冊
- 大名 18冊
内容を想像すると、何かが見えてくる気がしませんか。一位が「若様」って・・・。「若君」「若殿」を加えると全体の14%に「若」が入っていたのだそうだ。
これがどういう使われ方をするかと言うと「次男坊若さま」「若さま絵図」「富士に立つ若殿」。もうお腹いっぱいです。他にもタイトルだけ挙げると「純情青ひげ娘」「拳銃先生」「ミサイル社員」などなど。こういうタイトルばかり見ていると同じ貸本小説でも「狂った欲望」なんてマシに見えてくる。空間が歪んでるよ。
内容は推して知るべしだが、本書では折に触れて貸本小説から引用してくれる。引用部分を読むとすごくおもしろい(笑える)のだが、これが一冊続くと思うとさすがに読む気にはなれませんね。
本書では貸本小説家を切り口にして当時の文化的・時代的背景も加味しながら貸本文化全般の分析を試みている。小説家一人一人を丹念に調べ上げたその情熱には素直に感心してしまう。それでいて本書の帯の文句はコレである。
本書の装丁にも触れておきたい。本書は当時の貸本で一般的だった装丁になっている。最初見たとき、随分厚くて軽い本だな、と思ったのだが、本書を読んでこの形態に納得してしまった。カバーの絵はもいいですね。オマケに本文は時間がたつと貸本そっくりに変色する紙を使用しているとのこと。数年後に改めて繰ってみたい一冊だ。