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普段からは見えないその人の魅力 書評:サウスバウンド

いま、採用のためにいろんな人の職歴を見ているのだが、半年前の自分を見ているようでツライです。

以前から持っていたのだが、なぜかなかなか手が出なかったのが本書である。自分でも理由はよくわからない。唯一考えられる理由は束だ。厚いんだコレ、534頁もある。けれど持ってみるとすごく軽いし、文字は小さめ(12.5級?)で読みやすい。

「SOUTHBOUND」とは「南行きの」という意味だ。本書は二部構成になっていて、東京での一部、そして南に移って、沖縄での話が第二部である。

主人公は小学6年生の上原二郎。父親は伝説的な社会運動家・・・、だったのだがいまは何もせずにブラブラしていて見る影も無い。二郎はひょんなことから以前父が活動していた左翼団体の内ゲバ内ゲバ に巻き込まれてしまう。人が一人死に、父はまた公安に目を付けられてしまう。そんな状態に嫌気がさした一家は沖縄へ引っ越すことにした。ところが引っ越した先では住民運動に巻き込まれて・・・。

これは、オモシロイです。とにかくいろんな話が錯綜するのだが、ダメダメだった父親がいつのまにかヒーローになっていく。

奥田の小説のおもしろさの一つがこの「見方を変えるとこうなる」というような、特殊な二面性をうまく一つにしたキャラクターを描き出すことだと思う。映画マトリックスの冒頭でトリニティーが空中に浮かんだ瞬間をカメラがグルっとまわるように、少しずつキャラクターの違う面が出て来て、いつしかそのキャラクターに引き込まれてしまうのだ。

人間誰しもいろんな一面を持っている。ふと自分の知らなかった一面を見たときから、その人の印象、ひいては評価がガラリと変わることがある。死んだじいさんがそうだった。

私はずっとじいさんのことを、普段から冗談も言わないマジメな人だと思っていたのだが、私が高校生だった頃に一度だけ飲んだくれて帰って来たことがあった。まともに歩けずタクシーの運転手に抱えられて玄関に入って来た。そのままでは立てなかったので手を貸して部屋まで連れて行ったのだが、その時は「あー、こんな一面もあるんだ。」と驚いたものだ。

私が社会人になってから。じいさんとこで話をしていたら「馬喰町ってのは馬を商売にしていたヤツらが住んでいたんだ。若党町ってのは若い衆が住んでいた。」と言うので「へー、じゃ小人町は?」って聞いたら「昔、小人が住んでいた。」と言ってくれた。私の望む答えでボケてくれたところもうれしかったが「意外と冗談も言えるだな。」とうれしかった。

じいさんが亡くなった時、伯父から「目立たない人生でいい、路傍の石のような人生でありたい。」とじいさんが言っていたと聞いた。小さい頃から贅沢と貧乏を経験し、戦中戦後を生きて来たからこそだろうと思う。「やっぱりマジメな人だったんだな。」と思った。

普段からは見えないその人の魅力を感じることができるとホントにうれしいものだ。本書を読み始めたあたりでは、父親の上原一郎を「典型的なダメ野郎だな」と思っていた。しかし終わってみれば「一本筋があるってこういうことか」などと思っていたのである。「上原一郎のようになりたいか?」と聞かれると、それはイヤだが。

笑いあり、涙あり、マジメありの中で、登場人物にこれだけ親近感を抱かせるとは。奥田恐るべし。

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古本や古本市、本の買取、読書グッズ、本棚・書棚などについて書いています。私は読書が好きだし、楽しいことだと思っています。皆さんにも読書のある生活を楽しんでもらいたいと思ってます。

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コメント / トラックバック

  1. アクトヘアースタジオ
    2009年06月09日 火曜日 08時16分

    考えさせられるね。

    果たして、自分は子供に自分の人生の価値観を押し付けていないだろうかと・・・。

    でも、やっぱり、努力を怠るような人間にはなって欲しくないけどさ!(笑)

  2. 管理人
    2009年06月09日 火曜日 22時53分

    アクトヘアースタジオさん

    >自分は子供に自分の人生の価値観を押し付けていないだろうか

    これはねー、どうしようもないですよね。親がおしつけなくても、社会が「長男たるもの・・・」というようなことを押し付けることもあるし。押し付けであろうがなかろうが、本人に後悔だけはしてもらいたくないとは思います。一方で、自分の残りの人生よりも娘の人生に期待している自分もいます。orz

  3. ご本といえばblog
    2010年04月04日 日曜日 08時23分

    奥田英朗「サウスバウンド」

    奥田英朗著 「サウスバウンド」を読む。
    このフレーズにシビれた。
     二郎。前にも言ったが、おとうさんを見習うな。おとうさんは少し極端だからな。けれど卑怯な大人にだけはなるな…

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