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食べ物に例えるなら真っ白なご飯 書評:イノック・アーデン

悪者がいない、とことんいない。誰も悪くないのに悲しく、切ない。こうなると悪者は神様だけだ。しかしその神様ですら、最後は救いを差し伸べる。

幼なじみのイノックとフィリップとアニー。やがてイノックはアニーと結婚し幸せな家庭を築く。そんな幸せも長くは続かず、イノックは事故で怪我をして収入がなくなってしまう。イノックは家族のために大金を求めて長い長い航海に出る。アニーは心のどこかで夫との永遠の別れを感じた。夫のいない間、困窮を極めるアニーを見かねたフィリップは援助を申し出る。

そうして10年、ついにアニーはイノックが死んだと信じるようになりフィリップの求めに応じて再婚し新しい家庭を築く。それから数年してイノックは奇跡的に戻ってくる。遠くからアニーとフィリップの家庭を見たイノックは自分が死ぬまで名乗り出ず、アニーの新しい家庭をそっとしておくことを決心する。それから一年、ついにイノックに死が訪れる。

ま、話としてはありきたりの展開だが、本書に限って言えばありきたりであることが功を奏している。通常ならマイナスになりがちがアリキタリは安心になっている。水戸黄門と一緒だ。情景豊かな口語訳、シンプルだがどっしりとした物語、美しい装丁、ほどんどパーフェクトではないだろうか。

口語訳は読みやすく、くだけすぎない美しい日本語だ。アルフレッド・テニスンアルフレッド・テニスン の原文を音で楽しむ、そんな訳者原田宗典の想いが伝わってくる。

原文が物語詩に分類されるせいか組版もゆったりとしている。縦書きなのにフォントでバランスが悪いところが見当たらない。最後に原文(英文)も掲載されている。余計なあとがきなどは一切無い。

装丁は原研哉原研哉 、翻訳した原田宗典原田宗典 の同級生である。とかくこういう本では格式を重んじやすいが、フランス装でジャケットはグラシン紙で包んである。刷色が濃いめになっている紺色はグラシン紙を重ねて見るとうっすらといいぐあいに柔らかくなっている。触った感じの重さ(結構軽い)や柔らかさはどこかふっくらとした印象で口語訳の雰囲気によく合っている。表紙はジャケットと同じ模様が薄い緑色で印刷されている。すこし沈んだ色合いがシブイ。

本書は食べ物に例えるなら真っ白なご飯である。普段とは違う食生活が続くとふと思い出すのは真っ白な炊きたてのご飯。こういうときのご飯は見たことも無いくらいツヤツヤとしていて美しく、普段気に留めることもないその匂いまで思い出す。思い出し始めると食べたくてたまらなくなる、食べると「やっぱりコレだよね」となる。そうしていつしか忘れてしまう。この忘れることができるというのがポイントだ。

何度も読み返したくなる、そして次の本にさりげなく誘ってくれる美しい本と言える。惜しむらくは、ジャケットのバーコードだ。邪魔だー!

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